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大阪高等裁判所 昭和36年(ラ)289号 決定 1961年12月14日

抗告人 大野武雄

右代理人弁護士 島秀一

主文

原決定を取消す。

抗告人を過料一、五〇〇円に処する。

抗告費用はこれを三分し、その一を抗告人の負担とし、その余を国庫の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨は「原決定を取消す。抗告人を処罰しない」というのであり、その理由は別紙のとおりであつて、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

抗告人が昭和二八年二月一〇日から昭和二九年一二月六日まで南海製鋼索株式会社の代表取締役であつたこと同会社において昭和二六年一一月一二日株主総会の決議により存立時期の定めを廃止したこと昭和三六年四月一三日に至り始めて右変更の登記申請がなされたことはいずれも本件記録により明らであつて右登記事項発生当時には抗告人は未だ代表取締役に就任していなかつたことはまことに所論のとおりであるが代表取締役就任前に発生した登記事項に関しても、就任後はその代表取締役において登記義務を負担するものであるから、その就任後遅滞なく右義務を履行しないときは以後懈怠の責を免れないものである。しかして、代表取締役を辞任したときは、以後その代表取締役において右登記義務を負担するものでないことはもとより当然であるから、それ以後の分については同人において懈怠の責を負ういわれのないことは明らかであつて、この点に関する抗告人の主張は正当である。しかし、秩序罰たる過料の制裁には会計法第三〇条の適用乃至準用はないものと解するのを相当するから、抗告人の時効の主張は採用できない。

そうすると、抗告人において前記認定以外に右会社の取締役に就任していたことの認められない本件においては、抗告人の本件登記義務の懈怠は同人が代表取締役に就任していた前記昭和二八年二月一〇日から昭和二九年一二月六日までの間にすぎないものというべきであるから、右懈怠を登記申請を徒過した昭和二六年一一月二七日から登記申請をした昭和三六年四月一三日までと認定した原決定は法律の解釈を誤り、延いて事実を誤認したものであつて、この誤認は明らかに裁判に影響を及ぼすものと認められるから、原決定を取消し、抗告人を過料一、五〇〇円に処することとし、費用の負担につき非訟事件手続法第二八条第二〇七条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長判事 岡垣久晃 判事 宮川種一郎 大野千里)

<以下省略>

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